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津家庭裁判所 昭和51年(少ハ)5号 決定

少年 N・S(昭三一・一・九生)

主文

本人を昭和五二年一月一一日から昭和五三年一月一〇日まで特別少年院に継続して収容する。

理由

1  本件申請の趣旨及び理由の要旨

本人は窃盗、道路交通法違反等の非行により昭和五〇年三月一一日津家庭裁判所で特別少年院送致の決定を受け、同月一四日当愛知少年院に収容されたものであるが、性格的問題点が容易に改まらず同年八月にはシンナー吸引の規律違反を犯し、また九月一六日には同僚二名と共に脱走するなど事故が続き、それぞれ懲戒処分をうけたほか昭和五一年三月三日審判の結果、少年院法第一一条第四項により、犯罪的傾向がまだ矯正されていないため同法第一一条第一項但書の収容期限である昭和五一年三月一〇日を超えて昭和五二年一月一〇日まで収容を継続する旨の決定を受け、引き続き矯正教育を受けつつあつた。ところが本人はその後も入院前よりの知己であつた三重県出身の在院者等との不良集団に関与し、不穏の動きがたえず、昭和五一年六月一五日には事前に計画をこらしたうえ集団脱走を企図し、同僚五名を教唆して逃走せしめ(自からは逃走できなかつた)、そのため重ねて懲戒処分を受けたが、なおもやまず、同年九月一三日午前一〇時三五分事前に出院予定の暴力団組員とひそかに打合せそのグループによる援助を受けたうえ遂に重ねて自からも逃走をとげるに至つた。そこで当院としては関係機関の援助を求めてその行方を探索していたところ同年一〇月二八日午後三時頃本人が単独で自首復院した。よつて直ちに単独室に収容すると共に、累進処遇段階を三級に降級し謹慎二〇日の処分に付し現にその処分の執行中である。本人は生来意志簿弱で、飽き易く、付和雷同的且つ軽率、粗野な性格であるため不良集団と容易になじみ易く、自己の従来の言動に対する反省も表面的で責任感が乏しく、過去教護院収容中に逃走を繰返したように当院においても同様のことを繰返し企図実行しているのであつて、逃定中飲酒のうえ、自動車を窃取して運転するなどの行為も判明していて反省の実は殆んどみられない。今後本人に対しては更に一層強力な指導を推進していく必要があるがそのためには昭和五二年一月一〇日の収容期間満了をもつて出院させるのは最も不適当というべく、前記のような現在の少年の在級位置からすれば今後順調に推移しても当院における教育処遇に相当の期間を要するほか、出院後の保護者、引受態勢についても本人との関係調整や本人の帰住後の保護観察に相当の期間を見込まなければならず、これらを併せて、本人に対しては前記期問満了後少くとも一年間を限度とする収容期間延長を必要とするところである。よつて重ねて収容継続を申請しその旨の決定を求める。

2  当裁判所の判断

一件記録及び調査、審判の結果によれば本件申請の理由とされた客観的事実は争い難く、本人はこれまで繰返し施設からの逃走を企て、実行しているものであり、逃走後の行跡も自棄的な心情に影響されている点があるとはいえ、従前の非行と殆んどその内容や態様を同じくしていて、改善のしるしがみえずこれまで既に二年に近い矯正教育の成果がはたして本人の身についたものとなつているか疑わしいところといわなければならない。しかも度重なるこのような規律違反行為のため、当然のこととはいえ本人の少年院における累進処遇段階はいまなお下級位にあつて、本人がこの後真面目に少年院における教育処遇に服従しつつ順調に推移したとしても出院が見込まれる最上級の段階に達するまでには、なお相当の期間を要することは明らかである。家庭での引受け態勢は前回の収容継続申請時と変化はみられないが、本人が度重ねて規律違反行為を犯し、その都度出院見込が延びることについて父兄の焦慮していることは疑いなく、本人が自から窮状を作り出しているのと同様で、その調整もやや困難の度を加えつつある。本人が重ねて事故を起すことがあるのではないかということは前回収容継続申請審判時に既に或程度危惧されたところであり、過去の経過から不幸な予測が適中しないよう本人の最も自覚することが望ましい点は同審判決定書において既に指摘していたところであるが、結局現実にこのことが回避できなかつたのは、本人の責に帰すほかはないであろう。いずれにせよ本人の叙上の行跡からしてその犯罪的傾向はまだ矯正途上にあつて前記第一回の収容継続決定の期限である昭和五二年一月一〇日をもつて出院させるには不適当であると認められ、その矯正のためには右期限をこえ、仮退院後の保護観察の見込期間を含めてなお一年間程度を限度とする収容教育を必要とすると考えられるので、本件申請は理由がある。

よつて本件申請を申請のとおり認容することとし、少年院法第一一条第四項に則り主文のとおり決定する。

(裁判官 上本公康)

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